真に健全で個性豊かな人間教育の樹立

学校法人 武南学園 武南高等学校

『思考の整理学』武田先生のオススメ

2020/05/17

 今から35年前、当時の高波教頭先生が、毎朝、色々な雑誌から選んだ記事を切り貼りし、一枚のわら半紙にまとめて、教職員全員に配り、教員力育成に取り組まれていらっしゃった。「紙の無駄なんだよ」と陰口をいう先輩もいたが、新人だったこともあり、目は通すようにしていた。自分の気持ちがのらない時もあったが、それでも、元英語科教員である外山滋比古という人のコラムを取り上げた号は毎回おもしろく、密かに楽しみにし、気に入ったものは取っておいたものだ。

  英文学者、言語学者、評論家、エッセイストの外山氏のコラムの中で、今でも、一番心に刺さっているのが、「教員の一番良い時期は35歳~42歳」とハッキリ述べられていたことだ。あまりに、たくさんの書籍、エッセイを残されている方なので、どこで発表されたものか思い出すこともできないが、教員なりたての時、部活指導に燃えていた時、たくさんの生徒が補習に参加してくれていた時、学習参考書を出版することができた時、担任を外れた時、外山氏の言葉が、教員生活のあらゆる局面で頭をよぎり、ここからが勝負!これからが勝負!と思いを新たにしてきた。そして今、コロナ感染で学校教育そのものも大きく変わらざるをえない状況に追い込まれている。外山先生ならこの状況をどう打開するのだろう?そんなことを考えた。

 ご存じだろうか?今、東大、京大の生協(大学内の売店のこと)で一番売れている文庫本が、外山氏の『思考の整理学』だという。なんと、最近12年間をみても、東大、京大ともに7回も年間1位を記録している。刊行から35年経って、販売数245万部突破。この不滅のベスト・ロングセラーから、学校教育を “グライダー人間と飛行機人間” の比較を使って述べている箇所(フレーズ)を、抜き出してみる。

「学校の生徒は先生と教科書にひっぱられて勉強をする。自学自習ということばこそあるけれど、独力で知識を得るのではない。いわばグライダーのようなものだ。自力では飛び上がることができない。」

「学校はグライダー人間の訓練場である。飛行機人間はつくらない。グライダーの練習に、エンジンのついた飛行機などがまじっていては迷惑する。危険だ。学校では、ひっぱられるままに、どこへでもついて行く従順さが尊重される。勝手に飛び上がったりするのは規律違反。たちまちチェックされる。やがてそれぞれにグライダーらしくなって卒業する。」

「人間には、グライダー能力と飛行機能力がある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。」

「学校はグライダー人間をつくるのには適しているが、飛行機人間を育てる努力はほんの少ししかしていない。学校教育が整備されてきたということは、ますますグライダーをふやす結果になった。お互い似たようなグライダー人間になると、グライダーの欠点を忘れてしまう。知的、知的と言っていれば、翔んでいるように錯覚する。」

「指導者がいて、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるけれども、新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠である。それを学校教育はむしろ抑圧してきた。急にそれをのぼそうとすれば、さまざまな困難がともなう。」

「現代は情報の社会である。グライダー人間をすっかりやめてしまうわけにもいかない。それなら、グライダーにエンジンを搭載するにはどうしたらいいのか。学校も社会もそれを考える必要がある。」

「グライダー専業では安心していられないのは、コンピューターという飛び抜けて優秀なグライダー能力の持ち主があらわれたからである。自分で翔べない人間はコンピューターに仕事をうばわれる。」

「グライダー兼飛行機人間となるには、どういうことを心掛ければよいかを考えたい。」

  もう一度確認しておくが、1986年に書かれた本である。ウインドウズ95発売に伴うPCブーム、インターネットが普及する前の時代に、まさに今、教育界で論じているような問題が書かれている。まったく古さを感じないことに驚かされる。

  それと、こんなことにも気付かされた。オンライン授業、ICT教育が、果たして、「飛行機型人間をつくっていることになるのか?」ということだ。あらゆるもののデジタル化は、世の中をしあわせにすることになるのだろうか?

  飛行機型人間に興味をもった人、知識に偏った勉強をしてきたからこそそれじゃいけないのではと思っている人、是非、手に取ってくださいね。示唆に富む一冊です。

  残りの教員生活でも、新しいことに果敢に挑戦していきたいと思っています。外山先生の『思考の整理学』の「ことわざ」の章を動画で解説してみました。よろしければご覧下さい。

ことわざ